小説講座  売れる作家の全技術 大沢 在昌 (角川書店)

小説講座  売れる作家の全技術 デビューだけで満足してはいけない
大沢 在昌 (角川書店) 2012/7/31 1刷 1500円 (税別)
Every Technique to Become a Successful Author
初出:「小説 野生時代」2011/7月号~2012/8月号
装丁:片岡忠彦

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どうしても小説家になりたい応募者を対象に、「小説 野生時代」誌上で募集した作品で選抜された12名を受講生に、大沢在昌氏が1年間プロの小説家になるための講座を開いたという本。

氏の小説を読むのと同じような快感とスピードある、面白い講義です。

半年かけて四六判1冊の書き下ろし小説でデビュー出来た場合、定価1700円初版四千部だとして、収入は98万円と、コンビニでアルバイトするより収入は少ないという、冒頭からいきなり身も蓋もない話や、偏差値の高い新人賞を狙えといった、デビュー作戦のポイントや出版不況の状況など、予備校の先生のようなスタイルで始まり、いっきに読者はつかまれます。

著者が小説は出だし数行で読者をつかむ重要性を説く講座内容と同じです。

大沢氏が直木賞をとった直後、ワセダミステリクラブの講演を聴いた時のことを思い出し、本書の読みやすさや面白さが、構成の澤島優子氏によることが大きいと著者が書いているとはいえ、面白い作品を書く小説家は、話も面白いと感じました。

365日休み無く考え続ける過酷な職業です、小説家は。

本書は重要な箇所を赤字やラインマーカーが引かれたように印刷され、課題提出された受講者の作品を具体的な材料として扱っているので、興味深く、話される内容はビジネス書のようでもあります。

小説家は出版社の下請け業者であり、小説家は生産者であり経営者でもあるとい視点が、経営指南書とも読め、小説家を目指していない読者も大いに楽しめ、スリリングです。

大沢作品の具体的な文章例を、著者自身による読者攻略法種明かしともなる解説で、プロットの立て方あたりでは、氏の小説のパターンを思い出し、なるほどと頷いてしまいました。

自分の日本語力を疑えと、辞書を引く大切さを語る氏ですが、大沢氏の作品中、「すみません」ではなく、「すいません」と、会話が記述していた箇所を思い出し、あれは意図的なのか校正落ちだったのかと、疑問がよぎりました。

連載時に同業者読者が多かったという本講座は、企業秘密を公開しているようでもあります。

とはいえ、セミプロレベルの受講者の作品や、講座でのやり取りを読み進むうち、創作とは誰しもが出来ることではなく、やはり才能という神秘の領域の奥深さに、悲しいかな、あらゆる能力が平均より劣る筆者自身の境遇に思い至り、ほろ苦い読了でもありました。

大沢氏の小説のように面白い講座です。お薦めします。

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